PR

「売上が8000万円になったら医療法人化すべき」という通説は本当なのか?|有利になる5つの条件も解説

法人化
K先生
K先生

昨年の売り上げは約9000万円になり、税金の負担が重くなったため、顧問税理士に相談しました。すると、医療法人化を勧められましたが、その手続きや費用がどの程度かかるのかは不明で、法人化のメリットもわかりません。私にとって本当に医療法人化が必要なのでしょうか?

  • 歯科開業医(53歳)
  • 奥様も歯科医師
  • お子様(9歳、11歳)
  • 売上9000万円
  • チェア5台

現在は、売上が8000万円を超えたからといって医療法人化が必要だという考え方は古いものとされています。K先生の場合も同様で、現時点では医療法人化を行うことによるメリットは少ないと考えられます。その理由について詳しくご説明いたします。

本記事では、K先生のように売上が基準を超えていても医療法人化を見送るべきケースを検証したうえで、後半では逆に一般的に不利と言われる条件でも医療法人化が有利になる5つの条件を、別の相談事例をもとに解説します。

PR

医療法人は「特別な法人」であることを押さえておこう

医療法第7条により、株式会社などの営利法人が病院・診療所を開設することは認められていません。(参考:厚生労働省)

診療所を開設できるのは、医師である個人か、医療法人などの非営利法人だけです。医療法人は、この非営利性の要件を満たしつつ、医業収入を法人として受け取ることが認められた、いわば特別な法人と言えます。

一般の合同会社・株式会社(いわゆるマイクロ法人)では、そもそも医業収入を受け取ることができません。ここが、副業の節税で使われるマイクロ法人と、開業医の医療法人化がまったく別の話である理由です。

医療法人化により節税効果があると言われている理由

医療法人化によって節税効果がある理由は、主に以下の3つです。

  1. 所得分散がしやすくなることで、税負担が軽くなる。
  2. 相続税対策としても利用できる
  3. 退職金積立も簡単になる

これらの効果について、K先生の場合に置き換えて検証してみましょう。

医療法人化でさらに所得分散できるか

K先生の場合、奥様も歯科医師として常勤で働いており、その給与はK先生の80%程度とされています。また、同居されているご両親にも月15万円ずつの専従者給与が支払われていることから、所得分散は十分に行われていると考えられます。そのため、医療法人化を行って更なる所得分散による節税効果が期待できるかというと、大きな効果は見込めない可能性が高いと言えます。

例えば、医療法人化を行って、K先生と奥様がそれぞれ1000万円、ご両親がそれぞれ240万円の役員報酬を得るようにしたとしても、現在よりも年間100万円程度の税金削減にしかならないでしょう。この程度の節税効果では、後述するデメリットを上回るメリットがあるとは言い難いでしょう。

相続税対策を目的に医療法人化する必要は?

K先生については、相続税対策のために医療法人化を検討することが適切かもしれませんが、現時点ではお子様が小学生であり、どの方向性を進むかは不明です。医療法人の後継者は、医師または歯科医師でなければなりませんので、お子様のうちどちらかが医学部や歯学部に進学することが決定された後、再度医療法人化を検討することをおすすめします。

退職金積立が医療法人化によって簡単になる?

個人事業主が行える退職金積立は、小規模企業共済や確定拠出年金などに限られており、それらを利用した退職金の準備には限界があります。たとえば、開業から25年間、小規模企業共済や確定拠出年金の上限額に合わせて積み立てた場合、運用益を加味しても、4000万円から5000万円程度が限度でしょう。

医療法人化により、小規模企業共済や経営セーフティー共済への加入資格は失われますが、法人は生命保険を利用して、退職金を積み立てることができます。この場合、保険料の一部を損金計上することができるため、退職金の積立金額を増やすことができると言えます。

ただし、2019年には節税保険と呼ばれる法人保険の税務処理方法が変更され、大幅な節税効果が期待できた保険が廃止されました。小規模企業共済や経営セーフティ共済と同等の節税方法を見つけることは、非常に難しいでしょう。そのため、生命保険を利用した節税を目的とした医療法人化は、お勧めできないと言えます。

厚生年金に加入できるメリットはどうか

個人開業医は国民年金のみですが、医療法人化すれば理事長も厚生年金に加入できます。将来の年金額を増やせる点は、医療法人化の見逃せないメリットの一つです。

しかし、K先生は現在53歳です。70歳のリタイアまで加入できたとしても加入期間は17年程度にとどまり、若いうちから加入する場合と比べて上乗せされる年金額はそれほど大きくありません。

すでにiDeCoや小規模企業共済で老後資金を計画的に積み立てているのであれば、厚生年金だけを目的に医療法人化する必要性は高くないでしょう。

むしろ注意が必要なのは、健康保険料の方です。歯科医師の場合、多くが歯科医師国民健康保険(歯科医師国保)に加入しており、保険料は所得に関係なくほぼ定額です。

医療法人化して協会けんぽに切り替わると、保険料は所得に応じて上がる仕組みになります。K先生のように売上が9000万円もある高所得の場合、健康保険料はむしろ増えてしまう可能性が高いでしょう。

分院展開の予定はあるか

個人開業医は、原則として実質1施設に限られますが、医療法人であれば複数の管理者(院長)を置いて分院展開することができます。

K先生はチェア5台の医院を経営されていますが、現時点で分院を出す計画は伺っていません。事業拡大の予定がないのであれば、この点も医療法人化を急ぐ理由にはならないでしょう。

医療法人化のデメリット

K先生が医療法人化を検討する上で考慮すべきデメリットは、以下の3つです。

  1. 設立には手間や費用が必要
  2. 運営にかかる手間や費用が増える可能性がある
  3. 解散する際にリスクが生じる可能性がある

初期費用とランニングコスト

医療法人化には、初期費用とランニングコストが増加するというネックがあります。通常、医療法人化には約100万円の初期費用が必要であり、税理士の費用や社会保険料など、運営にかかる費用も増加します。前述の通り、K先生の場合、医療法人化による節税効果は100万円程度であり、増加する費用によってその効果が打ち消され、最終的には手間ばかりがかかる結果になる可能性があります。

医療法人の解散

医療法人が解散する場合、残された財産は国または地方公共団体に帰属することになります。また、医療法人を引き継ぐ人は医師または歯科医師である必要があります。

お子様が医療とは異なる分野に進んでしまった場合、残された選択肢は解散または売却になります。しかしどちらにしても、法人の資産を退職金に換えるための計画が必要です。退職金を運用する場合、上限額に注意する必要があります。

年齢的に退職金を大幅に増やすことは難しい

K先生は現在53歳で、医療法人化をする場合、リタイアを希望される70歳までの期間は約15年しかありません。また、受け取れる退職金には上限があります。この上限額は、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(+特別功労加算)で求めることができます。医療法人の理事長の功績倍率は2.6~2.7、副理事長の場合は2.0程度で計算されます。特別功労加算は、上限額の30%以下とするのが一般的です。

最終報酬月額が100万円で、理事長の功績倍率が2.7、在任期間が15年、特別功労加算なしの場合、退職金は以下のように計算されます。

100万円×15年×2.7=4050万円

個人開業医の場合の小規模企業共済や確定拠出年金の上限額と比べても、差が大きくないことがわかります。最終報酬月額を上げることもできますが、退職金を準備する期間が限られていることを考えると、多額の退職金を受け取って帳尻を合わせることは難しいと考えられます。

K先生の結論

K先生にとっては、現在医療法人化しても、手残りを増やす効果が少なく、むしろ手間が増える可能性が高いため、医療法人化は一旦見送りとなりました。将来、売り上げが大幅に増えた場合やお子様が後継者になる場合に再検討されることになりました。


逆に、医療法人化が有利になる5つの条件

節税のための法人保険の活用が困難になっている今、医療法人化のメリットが大きい人は少なくなってきています。しかしながら、少ないとは言え、医療法人化するべき人が一定数いることも事実です。

K先生とは対照的な、別の相談事例をもとに、医療法人化が有利になる条件を5つに整理して紹介します。

I先生
I先生

昨年開業したばかりですが、納税額が突然1,000万円を超えてしまいました。顧問の税理士にはすぐに医療法人化することを勧められましたが、子供もいないし、常勤のスタッフも雇っていない私にとって、本当に法人化すべきでしょうか。第三者からのアドバイスをお願いします。

  • 44歳
  • 内科開業医(開業1年目)
  • 奥様(43歳・看護師・専従者)

I先生が懸念されているように、後継者がいない場合は医療法人化が適していないと考えられていますが、私も顧問の税理士と同様に、I先生は医療法人化することが有利だと考えます。5つの条件に沿って、その理由を順番に説明させていただきます。

①利益率・所得水準が高い

日本は累進課税制度を採用しているため、所得が高くなるほど、税率も上がります。

その結果、1人で5,000万円の報酬を受け取るのと、家族で3,000万、1,000万、1,000万と分けて受け取る場合では、世帯年収は同じ5,000万円ですが、支払う税金に500万円以上の差が生まれることもあります。

所得を分けるだけで節税できるなら、分ける方がお得だと考える人も多いですが、注意点があります。

例えば、常勤の医師(院長)と、特に資格を持っていない、時々受付を手伝っている方(奥様)の給与を同じにすることは、一般の常識から乖離しているため、NGです。

そうした場合、数年後に税務調査官が来て、追徴税を課される可能性が高いです。それでは、本来払うべき金額よりも多くの税金を払わなければならなくなるため、本末転倒です。

I先生に関しては、奥様が看護師資格を保有し、フルタイムで医院を手伝っているため、現在の専従者給与の500万円をもう少し増額することは可能だと考えられます。

しかし、一般的に考えると1,000万円以上の給与を受け取っている看護師はほとんどいないため、その昇給幅とそれによって得られる節税効果は限定的です。

I先生
I先生

仕事内容から逸脱した給料は認められないということですね

②家族に相応の役割がある

しかし、奥様が医療法人の役員である場合は状況が変わります。役員報酬はその人が「何をしているか」よりもその人の「責任」に基づいて設定されるため、特に資格を持っていない奥様に1,000万円以上の役員報酬が支払われることも珍しくありません。

また、現在、時々病院の経理などを手伝っているお母さんを役員に任命することで、報酬を増やすことも可能です。

I先生の医院は月の売上が800~900万円程度で推移し、利益率が50%を超えています。ここまで利益率が高いと、医療法人にならずに税金をコントロールするのは難しいと言えます。

一般的に30%の利益率が望ましいとされていますが、I先生のように大きくこれを超えている場合は、後継者がいなくても医療法人化を検討する価値があります。

③まとまった退職金を計画的に用意したい

法改正により法人保険を使って節税することは困難になりましたが、退職金のために法人保険を使うことは今後も有用です。

個人開業医のままだと、退職金として計画的に準備できるのはiDeCoと小規模企業共済くらいですが、医療法人であれば一部を経費にしながら退職金を増やすことができます。

個人開業医として経営を続け、iDeCoと小規模企業共済への加入によって積み立てられる退職金は、ご夫婦合わせて60歳時点で約5,000万円となります。(毎月のiDeCoは6.8万円、小規模企業共済へは毎月7万円積み立てる前提)

ご夫婦で月に30万円程度の生活費であれば、5,000万円程の退職金でリタイア後も十分に過ごすことができます。

しかし、I先生の場合は月の生活費が100万円を大幅に超え、趣味関連の支出も多いため、退職後10年以内に資金が枯渇する可能性が高いと考えられます。

60歳でセミリタイア(週の診療日数を3-4日に減らす)、70歳でフルリタイア、夫婦ともに90歳まで生きると想定した場合、現在の生活を維持するために必要な退職金は夫婦で3.2億円と推定されます。その資金を法人保険を利用して医療法人の中で準備することをお勧めします。

K先生が53歳で「退職金を準備する期間が足りない」と判断されたのに対し、I先生は44歳で開業1年目のため、法人の中で退職金を積み上げる時間が十分に残されている点も大きな違いです。

④厚生年金に加入して将来の年金を増やしたい

個人開業医は国民年金のみが基本で、スタッフが5人未満であれば厚生年金への加入義務もありません。(参考:税理士法人テラス)

一方、医療法人は厚生年金保険の強制適用事業所となるため、理事長も厚生年金に加入することになります。将来受け取れる年金額は、国民年金だけの場合より確実に増えます。

ただし良いことばかりではなく、報酬水準によっては社会保険料の負担そのものが個人時代より増える点は覚えておいてください。

負担が増える分、将来の年金という形で戻ってくると捉えれば、老後資金の準備手段の一つとして前向きに考えられます。I先生は44歳なので、K先生の場合より10年近く長く厚生年金に加入でき、その分上乗せされる年金額も大きくなります。

⑤将来、分院展開など事業拡大を考えている

個人開業医は、原則として開設者本人が管理者(院長)を務める必要があるため、実質的に1施設のみに限られます。

医療法人であれば、理事長のもとに複数の管理者(院長)を置けるため、分院展開など複数医療機関の経営が可能になります。

今は1施設でも、将来的に分院を出す可能性が少しでもあるなら、早めに医療法人化しておく方がスムーズです。

I先生の結論

追加で、奥様から、I先生は稼いだら稼いだだけ使いたくなる性格で、年収が高くても貯金ができないという相談を受けていました。

そこで、役員報酬を1,700万円とし、それ以外の資金は法人に強制的に残し、退職金やその他の運用に充てる仕組みを提案しました。

I先生は「後継者がいない」という点だけを見れば医療法人化に不向きなケースですが、①利益率50%超、③まとまった退職金が必要という2つの条件に強く当てはまるため、医療法人化をお勧めしました。

まとめ

売上9000万円のK先生は医療法人化を見送り、開業1年目で後継者もいないI先生は医療法人化を選びました。「売上が8000万円を超えたら医療法人化」という一律の基準では、正しい判断はできないことがお分かりいただけたかと思います。

判断の軸になるのは売上ではなく、①利益率・所得水準、②家族に相応の役割があるか、③退職金をどれだけ用意する必要があるか、④年齢と厚生年金の加入期間、⑤分院展開の予定、の5つです。逆に、あと5年で引退する方などは、これらの条件を満たしていても向かない場合があります。

医療法人化を検討する場合は、自分自身にとってのメリットとデメリットをしっかり理解し、慎重に判断することをお勧めします。迷った場合は専門家に相談しましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました