
勤務医として数年働いているけど、開業する適切なタイミングっていつなんだろう?

開業するタイミングは人それぞれですが、一般論を交えながら解説していきますね
勤務医としての経験を積みながら、いつかは自分のクリニックを開業したいと考えている方は多いでしょう。しかし、そのタイミングは非常に重要です。適切なタイミングを見極めることで、成功の確率が大きく変わります。
本記事では、勤務医が開業を考える際の適切なタイミングと、開業前に必ず理解しておきたい勤務医と開業医の金銭面の違いについて、具体的なポイントを挙げながら解説します。
勤務医が開業を考えるべきタイミングとは?

勤務医が開業を考えるべきタイミングは、いくつかの重要な要素によって決まります。
まず第一に、経験とスキルが十分に蓄積されているかどうかが重要です。勤務医としての経験が浅いと、患者対応や経営の面で苦労する可能性があります。具体的には、少なくとも10年以上の臨床経験を積むことが推奨されます。これにより、さまざまな症例に対応できる能力が身につき、信頼を得ることができます。
また、開業資金の準備も欠かせません。開業には多額の資金が必要です。自己資金をしっかりと蓄えるとともに、金融機関からの融資も検討する必要があります。クリニックの立地や設備にかかる費用、人件費などを考慮し、十分な資金計画を立てることが大切です。
開業資金の具体的な調達方法(公的融資・開業医ローン・医療機器リース)については、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、開業のタイミングを考える上で金利動向も無視できない要素になってきました。日本銀行は2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、段階的な利上げを続けており、2026年6月時点の政策金利は1.0%と31年ぶりの高水準です。(参考:日本銀行「金融政策決定会合」)
今後もさらなる利上げが見込まれているため、開業資金を借入で調達する場合は、先延ばしにするほど借入コストが増える可能性があることも考慮に入れておきましょう。
さらに、家族の理解と支援も重要です。開業には多くの時間と労力が必要となります。そのため、家族の協力が不可欠です。家族と十分に話し合い、サポートを得ることが成功への鍵となります。
開業の平均年齢
日本医師会が発表した調査によると、クリニック開業の平均年齢は41.3歳です。この年齢は、医師として一定のキャリアを積み、自己資金の準備や家族のサポートが整う時期と重なります。

ただし、この調査は2009年に行われたもので、現在の平均年齢とは乖離している可能性があります。現在のクリニック開業の年齢に関する調査・統計は公的な機関においては行われていません。
(「開業動機と開業医(開設者)の実情に関するアンケート調査(2009年)」)
開業前に押さえておきたい、勤務医と開業医の金銭面の6つの違い
タイミングと並んで重要なのが、「開業すると、お金の面で何がどう変わるのか」を正しく理解しておくことです。開業を検討中の歯科勤務医の方からいただいた相談をもとに、6つのポイントで整理します。

勤務医は収入アップに限界があるので開業を検討していますが、勤務医と開業医の間で金銭面の違いを教えてください。
- ご年齢:32歳
- 診療科、キャリア:歯科医師(勤務医)
- 年収:約700万円
- ご家族:奥様(専業主婦)、お子様(3歳、1歳)
① 平均年収の違い

歯科医師の場合、開業が一般的なキャリアパスであり、勤務医の方で年収が1,000万円を超える例は少ないと言われています。
中央社会保険医療協議会が公表している第24回医療経済実態調査(令和4年度実績)によれば、歯科診療所に勤務する歯科医師(院長以外)の平均年収は約635万円、院長の平均年収は約1,509万円であったとされています。(参考:厚生労働省)
なお、個人開業医の場合は給与という形ではなく、医院の利益(損益差額)がそのまま収入になります。この損益差額でみると、個人開業医の平均は約1,119万円です。
この結果から、平均的には開業することで大幅に収入が増加することが予想されますが、実際には、医院の経営状況によって差が生まれ、開業後の収入が勤務医時代に比べて増加する場合もあれば、減少する場合もあります。
また、開業する際には多くの方が数千万円規模の借り入れを行います。設備投資に必要な費用は各設備の耐用年数に応じて償却されますが、この費用と返済額は一致しないため、事業ローンの返済のため、勤務医時代よりも収支が悪くなることもあるとされています。
② かかる税金の違い

K先生の場合、確定申告の経験がないと伺っていますが、勤務医として働いている方の多くは、給与から税金や社会保険料が自動的に引かれたものを受け取り、年末調整だけで済まされています。このような状況では、税金は予め引かれているものという認識が強くなり、そのコントロールをするという意識が薄れがちです。
しかし、開業医として働くことになると、税金の計算方法が変わり、経費を上手に計上することが重要になります。売上から必要な諸経費を差し引いた残りの金額に対して所得税や住民税が課せられます。
そのため、自分自身の給与から負担していた諸経費(例えばセミナー代や書籍費、パソコンなどの設備費用や接待交際費など)を医院の経費として計上することができます。
また、専業主婦の奥様やリタイアした親御様などに医院の受付や経理を手伝ってもらうことにより、専従者給与を支払い、所得税の負担を分散することもできます。

税理士に任せるにしても、ある程度の税知識は必須となります。
さらに、利益が残るようであれば「医療法人化する」という選択肢も新たに生まれます。同程度の売上であっても、税引き後の金額に大きな差が出てくるため、経費や税金をコントロールすることは、自由に使えるお金を増やすためには重要なポイントです。
③ 保障の違い

開業医になることにはリスクが伴います。医院の運営が困難になる可能性があり、病気や怪我などで一定期間働けなくなった場合、スタッフの給与や医院の家賃などの固定費は継続します。
勤務医であれば、休職中にも手当が支払われることがありますが、開業医の場合は自分で休業補償などを備える必要があります。そのため、収入は多いものの、休業補償や費用などを負担するために自由に使えるお金が減ってしまうということもあります。
④ 収入に関わる能力の違い

開業医は、医学的な知識やスキルだけでなく、経営に必要な能力も必要になってきます。一般的に医院経営には以下のような経営能力が必要でしょう。
- 財務管理能力:自分のクリニックの健全な経営を維持するために財務状況を管理する能力が必要です。財務諸表の読み方、コスト管理、収益管理などが含まれます。
- マーケティング能力:クリニックの顧客を拡大させ利益を向上させるために、集患や広告、ブランディング、競合の分析など幅広いマーケティング能力が必要になります。患者の立場や気持ちになって、認知から来院、再診までの体験を向上させていく力が必要でしょう。
- 人材管理能力:スタッフの雇用、教育、日々のコミュニケーションや給与管理などの人材管理能力が必要になります。従業員は、クリニックの運営に欠かせない要素です。人材管理能力を備えることで、従業員を有効に活用し、クリニックのパフォーマンスを向上させることができます。

これらの能力は学生時代にほとんど学ばないものです。向き不向きもあることでしょう。
もちろん、クリニックの経営はある種フォーマット化されているので、成功しているクリニックを参考にすれば良く、「天才的な経営手腕」のようなものは必要ではありません。しかし、勤務医のように医学的なスキルや経験年数に収入が依存することはなく、上記のような能力が収入に大きく影響を与えるようになってきます。
⑤ 社会保険(年金・健康保険)の違い
勤務医は厚生年金と協会けんぽ(または組合健保)に加入しますが、個人開業医になると国民年金と国民健康保険(医師国保・歯科医師国保に加入できる場合も)に切り替わります。
この違いは、特に将来の年金額に大きく影響します。厚生労働省の調査では、国民年金の平均受給額は月5万7,700円、厚生年金は月14万7,360円と、2倍以上の差があります。(参考:厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)
個人開業医になると、この上乗せ部分がなくなるため、老後資金は自分で用意する意識がより重要になります。

ただし健康保険については、必ずしも開業医が不利とは限りません。
歯科医師の場合、歯科医師国民健康保険組合(歯科医師国保)に加入できることが多く、この保険料は所得に関係なくほぼ定額です。収入が増えるほど保険料も上がる協会けんぽや通常の国保と違い、稼げば稼ぐほど、歯科医師国保の方が保険料負担は割安になっていきます。医科の場合も、各都道府県の医師国保で同様の仕組みが使えます。
⑥ 退職金の違い
勤務先によっては、勤務医には退職金制度が用意されていることがあります。一方、個人開業医には、そもそも退職金という仕組み自体がありません。
そのため、開業医はiDeCoや小規模企業共済、生命保険などを使って、自分で計画的に老後資金を積み立てていく必要があります。
逆に言えば、開業医は退職金の金額や受け取り方(一括か分割か、何歳で受け取るかなど)を自分の判断で設計できるという側面もあります。
開業することで、年収は多くなるかもしれませんが、責任や負担も増加するため、一概にどちらの方が優れているかは判断できません。開業する前に予め資金管理計画を立て、収入が増えるにつれて負担を増やしすぎないようにすることが大切です。
開業の準備段階で考慮すべきポイント
開業の準備を進める際には、以下のポイントを考慮する必要があります。
まず、開業する地域の選定です。地域選びは非常に重要で、需要と供給のバランスを考慮する必要があります。例えば、人口が多く、競合が少ない地域を選ぶことで、開業後の成功確率が高まります。
次に、クリニックのコンセプトを明確にすることです。どのような診療科目を中心にするのか、どのような患者層をターゲットにするのかを具体的に決めることで、他のクリニックとの差別化を図ることができます。たとえば、小児科専門のクリニックや、最新の設備を導入した内科クリニックなど、特色を出すことが重要です。
また、スタッフの採用も大切なポイントです。優秀なスタッフを採用し、チームとしての連携を強化することで、スムーズな運営が可能となります。採用時には、医療従事者としてのスキルだけでなく、コミュニケーション能力や協調性も重視することが重要です。
なお、近年はクリニックの倒産・休廃業が過去最多を更新するなど、開業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。開業前に知っておくべき経営環境については、こちらの記事も参考にしてください。
開業後の運営で成功するための戦略
開業後の運営で成功するためには、戦略的な取り組みが必要です。
まず、マーケティング戦略を立てることが重要です。地域における認知度を高めるために、インターネットを活用した広告や、地域のイベントに参加することなどが有効です。例えば、地域の健康フェアに出展し、クリニックの存在をアピールすることで、地域住民との信頼関係を築くことができます。
次に、患者満足度を高めるための取り組みを行うことです。丁寧な診療や、患者の声に耳を傾ける姿勢を持つことで、リピーターを増やすことができます。具体的には、アンケートを実施し、患者の意見を反映したサービス改善を行うことが有効です。
さらに、経営面での管理も欠かせません。収支バランスを常に把握し、効率的な運営を目指すことが重要です。例えば、定期的な財務分析を行い、無駄なコストを削減する取り組みを続けることが大切です。
まとめ
- 開業を考えるべきタイミングは、十分な経験、資金、家族の理解が揃った時。金利上昇局面では先延ばしのコストも意識する
- 開業すると年収・税金・保障・社会保険・退職金のすべてが変わる。収入が増えても、借入返済や休業リスク、年金の減少といった負担も同時に増える
- 開業準備では、地域選定、クリニックのコンセプト、スタッフの採用が重要
- 開業後の運営では、マーケティング戦略、患者満足度の向上、経営管理が成功の鍵
これらのポイントを押さえ、理想のクリニックを開業し、成功へと導いてください。







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