勤務医は収入アップに限界があるので開業を検討していますが、勤務医と開業医の間で金銭面の違いを教えてください。
- ご年齢:32歳
- 診療科、キャリア:歯科医師(勤務医)
- 年収:約700万円
- ご家族:奥様(専業主婦)、お子様(3歳、1歳)
勤務医と開業医では金銭的に大きな4つの違いがあります。具体的に説明しましょう。
ポイント① 平均年収の違い
歯科医師の場合、開業が一般的なキャリアパスであり、勤務医の方で年収が1,000万円を超える例は少ないと言われています。 中央社会保険医療協議会が公表している第21回医療経済実態調査によれば、勤務医の歯科診療所での平均年収は約621万円であり、院長の場合は1,186万円であったとされています。この結果から、平均的には開業することで大幅に収入が増加することが予想されますが、実際には、医院の経営状況によって差が生まれ、開業後の収入が勤務医時代に比べて増加する場合もあれば、減少する場合もあります。
また、開業する際には多くの方が数千万円規模の借り入れを行います。設備投資に必要な費用は各設備の耐用年数に応じて償却されますが、この費用と返済額は一致しないため、事業ローンの返済のため、勤務医時代よりも収支が悪くなることもあるとされています。
ポイント② かかる税金の違い
K先生の場合、確定申告の経験がないと伺っていますが、歯科医師として働いている方の場合、多くの人が給与から税金や社会保険料が自動的に引かれたものを受け取り、年末調整だけで済まされています。このような状況では、税金は予め引かれているものという認識が強くなり、そのコントロールをするという意識が薄れがちです。
しかし、開業医として働くことになると、税金の計算方法が変わり、経費を上手に計上することが重要になります。売上から必要な諸経費を差し引いた残りの金額に対して所得税や住民税が課せられます。そのため、自分自身の給与から負担していた諸経費(例えばセミナー代や書籍費、パソコンなどの設備費用や接待交際費など)を医院の経費として計上することができます。また、専業主婦の奥様やリタイアした親御様などに医院の受付や経理を手伝ってもらうことにより、専従者給与を支払い、所得税の負担を分散することもできます。
さらに、利益が残るようであれば「医療法人化する」という選択肢も新たに生まれます。同程度の売上であっても、税引き後の金額に大きな差が出てくるため、経費や税金をコントロールすることは、自由に使えるお金を増やすためには重要なポイントです。
ポイント③ 保障の違い
開業医になることにはリスクが伴います。医院の運営が困難になる可能性があり、病気や怪我などで一定期間働けなくなった場合、スタッフの給与や医院の家賃などの固定費は継続します。勤務医であれば、休職中にも手当が支払われることがありますが、開業医の場合は自分で休業補償などを備える必要があります。そのため、収入は多いものの、休業補償や費用などを負担するために自由に使えるお金が減ってしまうということもあります。
ポイント④ 収入に関わる能力の違い
開業医は、医学的な知識やスキルだけでなく、経営に必要な能力も必要になってきます。例えばですが、一般的に医院経営には以下のような経営能力が必要でしょう。
- 財務管理能力:自分のクリニックの健全な経営を維持するために財務状況を管理する能力が必要です。財務諸表の読み方、コスト管理、収益管理などが含まれます。
- マーケティング能力:クリニックの顧客を拡大させ利益を向上させるために、集患や広告、ブランディング、競合の分析など幅広いマーケティング能力が必要になります。患者の立場や気持ちになって、認知から来院、再診までの体験を向上させていく力が必要でしょう。
- 人材管理能力:スタッフの雇用、教育、日々のコミュニケーションや給与管理などの人材管理能力が必要になります。従業員は、クリニックの運営に欠かせない要素です。人材管理能力を備えることで、従業員を有効に活用し、クリニックのパフォーマンスを向上させることができます。
これらの能力は学生時代にほとんど学ばないものです。向き不向きもあることでしょう。
もちろん、クリニックの経営はある種フォーマット化されているので、成功しているクリニックを参考にすれば良く、「天才的な経営手腕」のようなものは必要ではありません。しかし、勤務医のように医学的なスキルや経験年数に収入が依存することはなく、上記のような能力が収入に大きく影響を与えるようになってきます。
最後に
開業することで、年収は多くなるかもしれませんが、責任や負担も増加するため、一概にどちらの方が優れているかは判断できません。開業する前に予め資金管理計画を立て、メリットが増加するにつれて負担を増やさないようにすることが大切です。
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