医療法人化をすることで相続税をどのくらい減らすことができるのか

法人化

医療機関が法人化される理由として最も多いのが、所得税を節約するためです。しかし、相続税を削減するために医療法人化を検討する人も多くいます。

今回は、相続税対策を目的に医療法人化を検討していた内科医のK先生のケースをもとに説明します。

U先生
U先生

息子が無事医学部を卒業し、将来的に医院を継ぎたいと言ってくれているので、医療法人化を検討しています。 どの程度のメリットが見込めるものなのでしょうか?

  • 62歳
  • 消化器科開業医
  • 売上8500万円
  • 世帯年収3800万円
  • 奥様:事業専従者(事務を担当)
  • お子様:長女、長男(後期研修医)

U先生が医療法人化を行うことで、以下の3つのメリットが期待できます。ただし、デメリットも存在するため、それらを理解した上で総合的に判断する必要があります。順番に説明していきます。

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医院を継承する際の相続税負担と手間を減らせる

U先生の年齢、収入、家族状況から、医療法人化によって得られる最大のメリットは、相続税や贈与税の負担が軽減され、継承にかかる手間が減ることです。現在設立可能な医療法人は、出資者の持ち分がない新しい医療法人のみであり、医療法人の資産は出資者の相続財産には当たらず、相続税の課税対象になりません。 また、個人開業医のままでは、医療機器の名義変更など手続きが非常に煩雑ですが、医療法人化すれば、理事長の名義を変更するだけで事業継承が完了するため、手間が減るのです。

所得税も節税することができる

医療法人化すると、所得分散がしやすくなるため節税効果があるとされます。例えば、医療系資格を持たない奥様の専従者給与が現在500万円だったとしても、医療法人化して役員になることで、資格を持たない奥様に1000万円程度の役員報酬を支払っている方もいます。また、息子や娘を役員に加えて役員報酬を支払うこともできます。U先生は昨年、世帯で約1000万円の税金を納税しており、医療法人化することで、役員報酬を低めに設定し、年間500万円以上の納税額を減らすことが可能です。役員報酬を低く設定した分を法人に残すことで、その資金を退職金原資として運用したり、継承前にリフォームや医療機器の入れ替えを行ったりと、選択肢が広がります。ただし、医療法人化にはデメリットもあり、総合的に判断する必要があります。

退職金の積み増しができる

U先生は既に60歳を超えており、確定拠出年金等の制度の一部は利用できない状況にありますが、医療法人化して法人保険を活用することで、退職金を増やすことが可能になります。現在のU先生の退職金は小規模企業共済のみであり、検討の余地があると言えます。

デメリット① 医療法人の設立や運用にコストがかかる

一般的に、医療法人化すると、税理士の報酬や社会保険料が上昇することがあります。また、設立には約100万円程度の初期費用が必要です。 これらの負担を考慮して、医療法人化によるメリットがあるかどうか、あらかじめシミュレーションを行うことが重要です。

デメリット② 退職金として受け取れる金額には限界がある

医療法人に多額の資金があっても、全てを退職金として受け取ることはできません。退職金の上限額は、「最終報酬月額×在籍年数×功績倍率(理事長:2.6~2.7)+功労加算(30%)」と決まっています。たとえば、理事長を20年間務め、退職時の役員報酬が月100万円の場合、最大で7000万円程度の退職金を受け取れます。新しい医療法人の場合は、継承時の税金に有利ですが、解散する可能性がある場合は、退職金の上限額を意識して、法人に残す資金を調整する必要があります。また、医療法人化によって、税理士の報酬や社会保険料が上がることもあるため、事前にシミュレーションすることが重要です。

慎重にシミュレーションして医療法人化すべきかを判断しよう

先述した通り、役員報酬の設定や退職金の積み立て額などの決定は、納税額に大きな影響を及ぼします。誤った選択をしてしまうと、医療法人化によるメリットを享受できないことがあります。残念ながら、役員報酬や退職金の準備について十分なアドバイスを提供してくれる税理士は限られているようです。迷った場合は、他の専門家に相談することをお勧めします。

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