勤務医にマイクロ法人の設立をおすすめできない3つの理由

節税
T先生
T先生

私には年間で約80万円程の副業収入があるのですが、マイクロ法人を設立すれば節税ができるという記事をネットで見かけました。勤務医でも節税ができるのでしょうか?

相談者のプロフィール:42歳 / 独身 / 内科 勤務医 / 年収1400万円(医業)+80万円(執筆業)

実際のところ、勤務医の先生がマイクロ法人を設立して大きな節税効果を得られるケースは多くありません。今回はその理由を丁寧に解説していきます。

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マイクロ法人の設立が有利にならない理由

数年前からマイクロ法人やプライベートカンパニーといった「小さな法人」を活用した節税事例を紹介する書籍が増え、勤務医の先生方からも、「マイクロ法人ってどうなの?」という質問を多く頂いています。

しかし、ご相談後に実際マイクロ法人を設立したケースは1割以下で、ほとんどの場合、節税方法としてマイクロ法人以外の選択肢を選ばれています。一般にはあまり語られていませんが、勤務医の方とマイクロ法人の相性が良くないという事実が存在します。

その理由は主に下記の3つになります。

一般法人では医業収入を受け取れない

悩んでいる医師

これは医師としてご存じの方も多いとは思いますが、医師は医療行為の対価としての報酬を一般法人で受け取ることは認められていないため、例えマイクロ法人をつくったとしても、受け取れるのは医業以外からの収入(T先生の場合は副業収入の約80万円)のみです。

勤務先の医院と相談して、報酬の一部をコンサル料のような形で分けて振り込んでもらえないか交渉されている方もいらっしゃいましたが、年々このような手法に税務署のチェックが入り厳しくなっているため、特に保険診療が中心の医院などはNGだと考えておいた方が良いでしょう。

マイクロ法人での節税を紹介する書籍が想定している読者は、一般的な会社員やフリーランスなので、書籍通りの手法を当てはめることが難しいですね。

一般の会社員やフリーランスは、当然、医療行為を行なっていないので、副業収入を全て法人で受け取ることも可能ですが、医師の場合は副業が「別の医院でのアルバイト(医療行為)」である場合がほとんどです。そのため、そのアルバイト代をマイクロ法人に流すという方法は成り立ちません。

このように、大きな問題があるため、会社をつくってもうまく所得分散ができず、マイクロ法人の設立による節税手法がうまく機能しないのです。

社会保険料が高くなってしまう

マイクロ法人を設立するメリットとして、社会保険料が安くなるということが知られていますが、これは主に個人事業主向けのスキームなので、勤務医や会社員などの給与所得者(社会保険に加入されている方)には当てはまりません

個人事業主の社会保険料がマイクロ法人の設立で安くなる理由

※ややこしいのでここは読み飛ばして大丈夫です。

所得税の計算に使用される課税所得には種類があり、個人事業で稼いだお金は「事業所得」、会社員や勤務医が会社からもらう給料は「給与所得」と呼ばれます。

社会保険のうち健康保険では、個人事業主は「国民健康保険」、給与所得者は「協会けんぽ」か「組合健保」に加入します。これらの保険料は当然、所得に比例して上がっていくので稼いでいる人ほど高くなっていきます。

個人事業主がマイクロ法人を立てた場合、たいていは「協会けんぽ」に加入することになりますが、「国民健康保険」と「協会けんぽ」は同時に加入することはできませんから、「国民健康保険」からは脱退することになります。

そしてこの「協会けんぽ」の保険料は、マイクロ法人からの給与のみに基づいて計算するため、例えば個人事業で50万円、マイクロ法人の役員報酬として10万円の所得があったとしても、50万円は無視され、10万円が健康保険の算定基準となるわけです。(参考:国税庁

給与所得者が法人を立てたら

すでに会社員や勤務医の方が、新しく法人の役員になる場合、2社分の社会保険に加入しなければならず、2社から受け取る給与の合計額を基準に社会保険料が計算されてしまうため、給与所得者がマイクロ法人を作ったとしても社会保険料を安くすることができないのです。

個人事業主やフリーランスの方は、マイクロ法人を作ってそこで社会保険に加入するという方法が成り立ちますが、ほとんどの勤務医の方は、マイクロ法人を作って役員報酬を受け取ると社会保険料が高くなってしまうでしょう。

給与所得者が事業所得を得ると有利

反対に考えれば、すでに給与所得者の人が、副業(事業所得)で収益を得たとしても、その事業所得の分だけ社会保険料が高くなるということはありません。この点でも、わざわざマイクロ法人をつくらなくても、個人事業を続けた方がメリットが大きいと言えます。

ややこしかったら、給与所得者は「給与所得」の分だけ社会保険料が増えると覚えておきましょう。マイクロ法人のメリットである社会保険料の節税は、個人事業主の方のみに適用されます。

T先生
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なるほど!それなら分かります!

法人設立や運営にコストがかかってしまう

マイクロ法人で一般に利用される「合同会社」を全て自分で設立・運営したとしても、資本金以外に6万円の設立費用と、年間7万円の運営費用(法人住民税の均等割)がかかってしまいます。

さらに、書籍等で紹介されているスキームでは、税理士をつけず自分で法人を管理するという内容が多いのですが、税理士に依頼すると当然ながら費用がかかってきます。

忙しい医師の方が自力でマイクロ法人の決算や確定申告を行うのは、あまり現実的とは言えないですね。

法人で受け取ることができる利益が少なく、②社会保険料を安くする効果も少ないため、マイクロ法人の設立による節税メリットは、コストより少なくなる可能性が高くなります。

総合的に考えると、一般にマイクロ法人の設立による節税効果がコストを上回るのは副業(医療行為以外)の収益が300万円を超えるあたりからと言われています。

そもそも、経費を落としたいだけであれば個人事業のみで十分でしょう。例えば、T先生の場合であれば、副業に使用しているパソコンの購入費用や、作業・商談等に使用した喫茶店での飲食費は経費になります。

結論 T先生へのご提案

T先生は相談をいただいたタイミングでは個人事業の開業届を出されていない状態で、執筆業で得た利益を雑所得として申告していました。雑所得では損益通算や青色申告特別控除などの優遇を受けることができないため、開業届と青色申告承認申請書を提出することを提案しました。

個人事業の青色申告は、昔は税理士でないとできないような業務でしたが、今はfreeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使用すれば、会計知識がほとんどなくても簡単に済ませることができます。

一度挑戦してみて、難しいと感じれば税理士に依頼すると良いでしょう

頑張ってみます!

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