節税のための法人保険の活用が困難になっている今、医療法人化のメリットが大きい人は少なくなってきています。
しかしながら、少ないとは言え、医療法人化するべき人が一定数いることは事実です。先日受けたお問い合わせをもとに、医療法人化が有利な人の特徴を紹介していきます。
昨年開業したばかりですが、納税額が突然1000万円を超えてしまいました。顧問の税理士にはすぐに医療法人化することを勧められましたが、子供もいないし、常勤のスタッフも雇っていない私にとって、本当に法人化すべきでしょうか。第三者からのアドバイスをお願いします。
- 44歳
- 内科開業医(開業1年目)
- 奥様(43歳・看護師・専従者)
I先生が懸念されているように、後継者がいない場合は医療法人化が適していないと考えられていますが、私も顧問の税理士と同様に、I先生は医療法人化することが有利だと考えます。その理由を順番に説明させていただきます。
医療法人化で税金をコントロールする
日本は累進課税制度を採用しているため、所得が高くなるほど、税率も上がります。その結果、1人で5000万円の報酬を受け取るのと、家族で3000万、1000万、1000万と分けて受け取る場合では、世帯年収は同じ5000万円ですが、支払う税金に500万円以上の差が生まれることもあります。
所得を分けるだけで税金を節税できるのであれば、分ける方がお得だと考えられる人も多いですが、注意点があります。例えば、常勤の医師(院長)と、特に資格を持っていない、時々受付を手伝っている方(奥様)の給与を同じにすることは、一般の常識から乖離しているため、NGです。
そうした場合、数年後に税務調査官が来て、追徴税を課される可能性が高いです。それでは、本来払うべき金額よりも多くの税金を払わなければならなくなるため、本末転倒です。
I先生に関しては、奥様が看護師資格を保有し、フルタイムで医院を手伝っているため、現在の専従者給与の500万円をもう少し増額することは可能だと考えられますが、一般的に考えると1000万円以上の給与を受け取っている看護師はほとんどいないため、その昇給幅とそれによって得られる節税効果は限定的です。しかし、奥様が医療法人の役員である場合は状況が変わります。役員報酬はその人が「何をしているか」よりもその人の「責任」に基づいて設定されるため、特に資格を持っていない奥様に1,000万円以上の役員報酬が支払われることも珍しくありません。
また現在時々病院の経理などを手伝っているお母さんを役員に任命することで、報酬を増やすことも可能です。さらに内科で月の売上が800~900万円程度で推移し、利益率が50%を超えていることからも、医療法人にならずに税金をコントロールするのは難しいと説明しました。
追加で、奥様から、I先生は稼いだら稼いだだけ使いたくなる性格で、年収が高くても貯金ができないという相談を受けていたため、役員報酬を1700万円とし、それ以外の資金は法人に強制的に残し、退職金やその他の運用に充てる仕組みを提案しました
一般的に30%の利益率が望ましいとされていますが、I先生のように大きくこれを超えている場合は、後継者がいなくても医療法人化を検討する価値があります。
退職金積み立てで有利
法改正により法人保険を使って節税することは困難になりましたが、退職金のために法人保険を使うことは今後も有用です。厚生年金や共済年金の加入期間が短く、退職金として受け取れるのは確定拠出年金だけでしたが、一部を経費にしながら退職金を増やすことができるのは、I先生にとっては大きなメリットと考えられます。
個人開業医として経営を続け、確定拠出年金と小規模企業共済への加入によって積み立てられる退職金は、ご夫婦合わせて60歳時点で約5000万円となります。(毎月の確定拠出年金は6.8万円、小規模企業共済へは毎月7万円積み立てる前提)
ご夫婦で月に30万円程度の生活費の場合、厚生年金に長い期間加入していれば、5000万円程の退職金でリタイア後も十分に過ごすことができますが、I先生の場合は厚生年金(共済年金)の加入期間が短い上、月の生活費が100万円を大幅に超え、趣味関連の支出も多いため、退職後10年以内に資金が枯渇する可能性が高いと考えられます。
60歳でセミリタイア(週の診療日数を3-4日に減らす)、70歳でフルリタイア、夫婦ともに90歳まで生きると想定した場合、現在の生活を維持するために必要な退職金は夫婦で3.2億円と推定されますので、その資金を法人保険を利用して医療法人の中で準備することをお勧めします。
まとめ
後継者がいない場合など、不利と言われるケースであっても、高い利益率の方や、退職金が十分に準備できていない方には、医療法人化するメリットがあると考えられます。ただし、これら2つの条件を満たしていても、あと5年で引退する方には向かないかもしれないので、他の条件も考慮して判断する必要があります。そのため、迷った場合は専門家に相談しましょう。
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