「売上が8000万円になったら医療法人化すべき」という通説は本当なのか?

法人化
K先生
K先生

昨年の売り上げは約9000万円になり、税金の負担が重くなったため、顧問税理士に相談しました。すると、医療法人化を勧められましたが、その手続きや費用がどの程度かかるのかは不明で、法人化のメリットもわかりません。私にとって本当に医療法人化が必要なのでしょうか?

  • 歯科開業医(53歳)
  • 奥様も歯科医師
  • お子様(9歳、11歳)
  • 売上9000万円
  • チェア5台

現在は、売上が8000万円を超えたからといって医療法人化が必要だという考え方は古いものとされています。K先生の場合も同様で、現時点では医療法人化を行うことによるメリットは少ないと考えられます。その理由について詳しくご説明いたします。

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医療法人化により節税効果があると言われている理由

医療法人化によって節税効果がある理由は、主に以下の3つです。

  1. 所得分散がしやすくなることで、税負担が軽くなる。
  2. 相続税対策としても利用できる
  3. 退職金積立も簡単になる

これらの効果について、I様の場合に置き換えて検証してみましょう。

医療法人化でさらに所得分散できるか

K先生の場合、奥様も歯科医師として常勤で働いており、その給与はK先生の80%程度とされています。また、同居されているご両親にも月15万円ずつの専従者給与が支払われていることから、所得分散は十分に行われていると考えられます。そのため、医療法人化を行って更なる所得分散による節税効果が期待できるかというと、大きな効果は見込めない可能性が高いと言えます。

例えば、医療法人化を行って、K先生と奥様がそれぞれ1000万円、ご両親がそれぞれ240万円の役員報酬を得るようにしたとしても、現在よりも年間100万円程度の税金削減にしかならないでしょう。この程度の節税効果では、後述するデメリットを上回るメリットがあるとは言い難いでしょう。

相続税対策を目的に医療法人化する必要は?

K先生については、相続税対策のために医療法人化を検討することが適切かもしれませんが、現時点ではお子様が小学生であり、どの方向性を進むかは不明です。医療法人の後継者は、医師または歯科医師でなければなりませんので、お子様のうちどちらかが医学部や歯学部に進学することが決定された後、再度医療法人化を検討することをおすすめします。

退職金積立が医療法人化によって簡単になる?

個人事業主が行える退職金積立は、小規模企業共済や確定拠出年金などに限られており、それらを利用した退職金の準備には限界があります。たとえば、開業から25年間、小規模企業共済や確定拠出年金の上限額に合わせて積み立てた場合、運用益を加味しても、4000万円から5000万円程度が限度でしょう。

医療法人化により、小規模企業共済や経営セーフティー共済への加入資格は失われますが、法人は生命保険を利用して、退職金を積み立てることができます。この場合、保険料の一部を損金計上することができるため、退職金の積立金額を増やすことができると言えます。

ただし、2019年には節税保険と呼ばれる法人保険の税務処理方法が変更され、大幅な節税効果が期待できた保険が廃止されました。小規模企業共済や経営セーフティ共済と同等の節税方法を見つけることは、非常に難しいでしょう。そのため、生命保険を利用した節税を目的とした医療法人化は、お勧めできないと言えます。

医療法人化のデメリット

K先生が医療法人化を検討する上で考慮すべきデメリットは、以下の3つです。

  1. 設立には手間や費用が必要
  2. 運営にかかる手間や費用が増える可能性がある
  3. 解散する際にリスクが生じる可能性がある

初期費用とランニングコスト

医療法人化には、初期費用とランニングコストが増加するというネックがあります。通常、医療法人化には約100万円の初期費用が必要であり、税理士の費用や社会保険料など、運営にかかる費用も増加します。前述の通り、I様の場合、医療法人化による節税効果は100万円程度であり、増加する費用によってその効果が打ち消され、最終的には手間ばかりがかかる結果になる可能性があります。

医療法人の解散

医療法人が解散する場合、残された財産は国または地方公共団体に帰属することになります。また、医療法人を引き継ぐ人は医師または歯科医師である必要があります。

お子様が医療とは異なる分野に進んでしまった場合、残された選択肢は解散または売却になります。しかしどちらにしても、法人の資産を退職金に換えるための計画が必要です。退職金を運用する場合、上限額に注意する必要があります。

年齢的に退職金を大幅に増やすことは難しい

K先生は現在53歳で、医療法人化をする場合、リタイアを希望される70歳までの期間は約15年しかありません。また、受け取れる退職金には上限があります。この上限額は、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(+特別功労加算)で求めることができます。医療法人の理事長の功績倍率は2.6~2.7、副理事長の場合は2.0程度で計算されます。特別功労加算は、上限額の30%以下とするのが一般的です。

最終報酬月額が100万円で、理事長の功績倍率が2.7、在任期間が15年、特別功労加算なしの場合、退職金は以下のように計算されます。

100万円×15年×2.7=4050万円

個人開業医の場合の小規模企業共済や確定拠出年金の上限額と比べても、差が大きくないことがわかります。最終報酬月額を上げることもできますが、退職金を準備する期間が限られていることを考えると、多額の退職金を受け取って帳尻を合わせることは難しいと考えられます。

まとめ

K先生にとっては、現在医療法人化しても、手残りを増やす効果が少なく、むしろ手間が増える可能性が高いため、医療法人化は一旦見送りとなりました。将来、売り上げが大幅に増えた場合やお子様が後継者になる場合に再検討されることになりました。

売り上げが一定ラインを超えていても、医療法人化するメリットがない場合もあります。医療法人化を検討する場合は、自分自身にとってのメリットとデメリットをしっかり理解し、慎重に判断することをお勧めします。

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